眠り姫は夜を彷徨う

そんなこと、考えてもみなかった。


(私…圭ちゃんのことを信じてあげられてなかった…?)


私が迷惑を掛けてしまっていたのは事実だけれど、圭ちゃんの本音や気持ちまでは確かに分からないままだった。

よくよく考えてみれば、幾ら圭ちゃんと磯山さんが仲良しだったとしても、圭ちゃんは人の悪口を他の人に愚痴ったりするような人じゃない。

もしかしたら、あれは磯山さん自身の言葉だったのだろうか?


(それでも、圭ちゃんに申し訳ない気持ちで一杯なのは何も変わらないけど…)


すると、そんな自分の声が聞こえたかのように桐生さんが口を開いた。

「ま。それでも、どうしてもお前の気が済まねぇってんだったら、そいつに感謝の気持ちの分をたっぷり返してやれ」

「感謝の気持ち…」

「そうだ。それが義理ってもんだろ?自分が嫌だとかって落ち込んでるヒマなんかねぇってことだ」

「桐生さん…」



桐生さんの飾らない言葉は、すんなりと自分の中に入ってきた。

確かにマイナス思考でいても意味はない。そうしている分、プラスになるように足掻いた方が何倍もマシだし、きっと意味がある筈だ。

(夜のこともそうだ。出歩く癖は今の私自身からは切り離せない事実なんだから。それを認めて、どうにか上手くやっていくしか道はないんだ…)


桐生さんとはその後、昇降口で別れた。

ほんの少し話しただけなのに、何だかすごく元気を貰った気がした。





紅葉と別れた後。

(そういやぁ、あいつが言ってた『夜がこわい』ってのはどういう意味だったんだ?さっきの話とカンケーあんのか?)

不意にそんなことが桐生の頭を過ぎったが、考えても解る筈もない答えに、すぐにその疑問を打ち消したのだった。