生まれた時からずっと一緒で、何をするにもいつも側にいてくれた大ちゃん。
 そんな当たり前の日々に、喜びを感じていた事。

 まるでお兄ちゃんのように、いつも私を気に掛けてくれる浩ちゃんに感謝する気持ち。

 瞳ちゃんが貸してくれる本はいつも面白くて、読んでいてとても楽しい事。
 そして、瞳ちゃんが弾いてくれるピアノが大好きで、いつもリクエストに応えて聴かせてくれる瞳ちゃんに感謝する気持ち。

 めぐちゃんの家で飼っているさくらちゃんはとても可愛くて、さくらちゃんの散歩は凄く楽しいという事。
 そしてまた、一緒に散歩に行きたいと。

 この小さな島で生まれて、一緒に育ってきた私達。
 遊ぶ場所など何もないけど、皆んなと一緒にいられるだけでどれだけ楽しいか。そんな当たり前の毎日が私の全てで、とても幸せだと。
 そう、思える皆んなと出会えて良かった。

 めぐちゃんが読み上げてくれる手紙を聞きながら、私の中で徐々に蘇ってくる鮮明な記憶。
 毎日笑い合いながら共に過ごした日々を懐かしく思い、気付けば、私の瞳には涙が溜まっていた。

 手紙を読み上げるめぐちゃんの声が徐々に涙を含むものに変わり、それにつられた私はついに涙を流した。

 ——中学を卒業して高校生になっても、ずっとずっと、今と変わらず皆んなと一緒にいたい。

 私の書いた手紙は、そう締めくくられていた。
 高校生になったら皆んなバラバラになってしまう。それがわかっていた私は、その事を寂しく思い、当時手紙に書いたのだろう。

 頬に流れる涙をそっと拭うと、私はゆっくりと顔を上げた。
 手紙を読み終えて、静まり返った空間。

 めぐちゃんと瞳ちゃんは静かに涙を流し、大ちゃんと浩ちゃんの瞳には涙が溜まっている。
 しんみりとしてしまった空気が妙に気恥ずかしくて、私は隣にいる大ちゃんを見ると小さく笑った。

 それに気付いた大ちゃんは、私につられて小さく微笑んでくれる。


「こっちは、何かな……?」


 再びピンク色の封筒に手を入れためぐちゃんは、中からもう一つの封筒を取り出した。


「大樹……」


 そう小さく呟くめぐちゃんの手元を見てみると、そこには【大ちゃんへ】と私の字で書かれた封筒がある。
 それを確認した私は、一気に顔が赤くなるのを感じた。


(確か……。あの手紙には、大ちゃんへの気持ちを綴った記憶が……)


 そんな物を今ここで読まれては困る。
 そう思って、口を開こうとした——次の瞬間。

 私のすぐ隣から、とても優しい声が聞こえてきた。


「それは後で読むから、しまっておいて」


 隣を振り向けば大ちゃんと視線がぶつかり、私を捉えたその瞳は優しく微笑んでくれる。

 安堵からホッと小さく息を吐くと、私は再びその視線をめぐちゃんへと戻してみる。
 するとそこには、封筒を持ったままジッと固まっているめぐちゃんがいる。


(……どうしたんだろう?)


「めぐちゃん……? それは、読まないで欲しいな」


 様子を伺うようにして覗き込むと、何故か悲しそうな顔をしているめぐちゃん。


「……うん。わかった」


 手に持った大ちゃん宛ての手紙を、丁寧にピンク色の封筒にしまってくれるめぐちゃん。
 そんなめぐちゃんの姿を見つめながら、私は少しの違和感を感じた。

 何故かはわからない——。
 だけど、何か少しモヤがかかったような、不安な気持ち。


「少し、校舎見てくるね」


 そう言って立ち上がった大ちゃんが、私に向けて手招きをする。

 大ちゃん追うようにして立ち上がった私は、一度歩き出そうと踏み出した足を止めると、そのままゆっくりと後ろを振り返った。
 未だ俯き加減で、悲しそうな表情をさせている瞳ちゃん達。そんな姿を見て、私は少しの罪悪感を覚える。

 私の手紙が、そんなに皆んなを暗くしてしまったのだろうか……? 私はただ、皆んなと一緒に笑って過ごしたかった。そう思っていただけなのに。


「皆んな……。なんか、手紙ごめんね。私……皆んなに悲しい顔して欲しかったわけじゃないの。……だからお願い。いつもみたく、笑って欲しいな」


 皆んなの悲しそうな表情を見ていると、胸が締め付けられる様で苦しい。


「そんな顔してたら、ひよが悲しむよ? 笑ってあげて」


 そんな声と共にフッと影が差し、隣を見上げてみれば優しく微笑んでいる大ちゃんがいる。


「……そうだな、何かごめんっ!」


 片手で頭を掻くような仕草をしながら、ハハハッと笑って見せた浩ちゃん。
 そんな浩ちゃんにつられるかのように、めぐちゃんと瞳ちゃんの顔にも笑顔が戻ってくる。


「……こめんね、日和」


 ポツリと小さく呟きながら微笑む瞳ちゃんに向けて、私は小さく首を横に振ると笑顔を見せた。


「じゃあ……ちょっと、行ってくる」

「校舎見てくるね。また後でね」


 大ちゃんと共にそう告げれば、3人は小さく手を振りながら、「また後で」と笑顔で応えてくれた。