歩いて幾分か気が紛れたおかげだろうか。


いつものように、なんとなく出方を窺いつつ接し方に気を使えるようになっていた。



思い切って話しかけるか、この場で別れるか。


重苦しい空気を打開する手はないかと探してみるもののイマイチで。


踏み出す勇気もない僕は、ただ不安で、今まで築いた何かが壊れる気がして怖くて。



離れてしまわないように、手を引くことしかできなかった。




「直人くん」


彼女に意識を集中させていなかったら、聞き漏らしてしまっていたかもしれない、か細い声。



たった今まで、後ろめたさから振り向けずにいたのに、この時の行動は早かった。


いつになく暗い表情で僕を仰ぎ見る彼女と、視線を合わす。


何も言えない僕は待つしかない。



「ごめんね」


その第一声を聞いて、咄嗟に口を開いたけど、迷った末にそのまま閉口した。