「千景!!」
やっとのことで中に入ると、不自然なくらい2人が密着していた。
千景の額には汗が滲んでいて、お腹の辺りの服が真っ赤に染まっていた。
ニヤリと笑っている陸くんがあたしを見て一瞬顔を強ばらせたかと思うと、再び気味悪く口角を上げる。
「優愛さぁん、ちょっと遅かったんじゃないですか〜?
もう、ほら。刺しちゃった」
あっけらかんと言い放つ彼を、彼の持ってるナイフで刺したくなった。
「優愛」
ただしそんな思いもお父さんに止められて。
お父さんは陸くんを取り押さえて、
あたしはグダリと倒れる千景を支える。
「きゅ、救急車…!」
「早く救急車呼ばないと本当に死んじゃいますよ〜?」
もう陸くんに反抗の思いはないらしく、黙ってお父さんに捕まっていた。
口だけがあたしを焦らせる言葉を吐く。
わかってるよ!
わかってるけど…焦って上手く打てないの!
「救急車を1台…はい、はい。
男性が1名刺されまして、はい。全速力で!お願いします…」
スマホの電源を切って、千景を支える。
「もう大丈夫だからね!救急車すぐに来るから…大丈夫だよ、千景…」
自分で言ってて泣きそうになってしまう。
もし、本当に千景が死んじゃったら…いなくなっちゃったらどうしよう?
千景がいなくなったらあたし…
「親父…」
ポツリと呟いたかと思うと右手が伸びてくる。
千景の目にはお父さんが映っているのだろうか。
「ずっとずっと優愛のことが好きだったよ。愛してる…」
体にかかる千景の重みがずしりと重くなる。
そんな…
ちゃんとあたしの顔を見て、目を見て言ってよ…!
このままお別れなんて嫌だよあたし…
ねぇ、戻ってきて。
「あたしだって大好きだよ…
だからちゃんと千景が起きてる時に言わせてよ…」
すぐ近くで救急車のサイレンが聞こえてきた。
あたしはゆっくり千景の体を床に下ろして、外に出た。
「こっち!こっちです!!」
担架で運ばれて救急車に乗る千景に意識が戻る気配はなくて、病院へ着くと手術室に行ってしまった。
神様。
お願いですから千景を助けてください…
ぱっと『手術中』の文字が赤く光る。
千景…頑張って…
あたしはただただ手を組んで神に祈るしかできなかった。

