「………ごめん、忙しいから」





久しぶりに聞いた彼の声はそう拒絶の言葉を紡ぐ。


…でも何故かそこまで傷付かなかった。


それはきっと、千景と話せない時の方が辛かったから。


目が合った途端に逸らされたけれど、今千景の目の前にいるのは間違いなくあたしで、千景の放つ言葉の相手は紛れもなくあたし。


それが、そんなことが嬉しかった。


ねぇ、千景。

あたし変みたい。おかしいみたい。


だって今あたし、これからのことしか考えてない。


こうやって避けられているのに。

拒絶の言葉を投げかけられているのに。



千景と初めて会った時だってそうだ。


怒られたし、うざがられた。


でも諦められなかった。


今の千景が今のあたしを嫌っていても、未来は違うんじゃないかって、未来は変わってるんじゃないかって確証もないのに自信があるの。





「あたし、千景に酷いことした。
お父さんのこと知ってたのに黙ってた…言ってしまうことで千景が離れていってしまう気がして怖かったの。
ごめんなさい…お父さんのこともあたし自身がやったことも許されることではないって思ってる…でも、本当にごめんなさい…」





千景からの反応はなくて、家のドアを開ける音がしたと思ったらガチャリと鍵が閉まる音がした。



……伝われ、なんて図々しいことは言わない。


ただあたしの思いを知っておいてほしかった。


その上で千景がどうするのか…あたしはそれを受け入れるしかできないけれど。



またあたしに笑いかけてくれたらいいなって、楽しそうに話してくれたらいいなって今はそれだけ思ってる。


どれだけ時間が経とうとも待ってる。



そんな日が来るかどうかわからないけど待ってる。



好きだから、離れている時間が辛いけど…

好きだから、待っていられる。



千景の家に灯りがついたのを見上げて、視線をまっすぐ先に戻した時ポロリと涙が落ちた。



そこで初めて泣いてることに気付く。


一度気付いてしまえば溢れて止まらなかった。





「……っ、ふっ…ぅ…っ」





鼻の奥がツンとして、目頭が熱くて。


息がきちんと吸えなくて嗚咽が出る。


涙が目に溜まっては流れて、筋を作っていく。



すれ違う人があたしのことを怪訝な顔で見るが、そんなことも気にせず一心に泣いた。



やっぱり好きなんだ千景のこと──