「千景いる?」

「あれ、優愛さん!
千景さんなら帰っちゃいましたよ」





帰った、ということは一度は来たってことだよね…


何も言わずに帰っちゃうなんて…


やっぱり避けられてる。きっと知られてしまった。



陸くんに話を聞こうと周りを見渡してもその姿はなくて。





「陸くん…も来てないの?」

「あぁーそうなんです!
最近来てなくて。何かあったんですかね?」





陸くんが何を考えて、何を思って千景に言ったのか…それも大事なことだけど、それよりもっと先にするべきことがある。



きちんと千景と話をしないと。


お父さんのこと、そして黙っていたこと。


ちゃんと謝らないといけない。



だから会えないと困るんだ。


あたしは学校が終わるとすぐ荷物をまとめて教室を出た。


亮くんから聞いた千景の家にも行ったが誰も出てこなくて、手当り次第に探す。


早くしないともう一生会えなくなるような気がして、見つけられないことにただただ焦る。


漫画やドラマではすぐに見つかるのに。


現実ではそう簡単にいかないものだ。





「千景…どこ…」





辺りも暗くなってきて、あたしの体力も底をつきそうで。


探すのはまた明日にしよう。


…でも、もしかしたら家に帰ってるかもしれないからもう一度だけ寄ってみよう。


そう思って、来た道を戻る。





「…!」





目の前には光り輝く金色の髪。


着崩された同じ制服。



あたしがずっと探してた…会いたかった人。


その背中には以前のような自信は感じられなくて…


とぼとぼと、千景らしくないオーラのなさだった。


その姿に、胸がちくりと痛む。


こんな風にしたのは絶対あたしのせいに違いない。



ずっと会いたくて、話したくて謝りたくて…

そう思ってたのに、いざ目の前にすると足がすくんでしまう。



あたしの中の千景が変わってしまいそうだったから。



目を閉じて彼を考えたとき優しい笑顔を浮かべる千景が、生気もオーラもない千景に変わってしまいそうで。



そんな顔にしたのはあたしだ、って自分で自分のことを許せなくなりそうで。


前に出そうとする足が鉛のように重い。



早く行かないと、家に入ってしまう。


今度じゃダメなんだよ。


今日じゃないと…ダメなの。





「………千景…!」





控えめに言ったつもりが、シンとした薄暗い世界に響き渡るくらいの声量で叫んでいたことに気付いてはっとする。



確かにあたしの声を聞いた千景がゆっくりと後ろを振り向いて、あたしと視線をぶつける。