「観覧車…」
いくつかアトラクションも乗って、次は何をしようか…と悩みながら歩いている途中に目に入った観覧車。
立ち止まってそんなことを呟く金田。
「乗る?」
「いいの?」
「うん!」
観覧車なんていつ以来だろう?
家族で遊園地に来て…帰りに乗ったのが最後。
小学生の時だから…もう何年前だろう?
「懐かしいなぁ〜」
少しの間、列に並ぶ。
並ぶといっても本当に数分だったけど…
「どうぞ〜」
案内されるがまま、ピンク色の観覧車に乗る。
…んんん?
「………こ、こんなに狭かったっけ…?」
な、何も思ってなかったけどこんな密室に二人きり…?!
「だから、いいの?って聞いたのに」
「そ、そうだけど!」
こんなことになるとは思ってもみなかったですし!
「俺は嬉しいよ?
世界に俺と優愛しかいないみたいで」
「え、えぇっと…?」
さっきまで窓から外を見ていたのに急に視線があたしの方へ向いて、じっと見つめられる。
優愛は嫌なの?
そんな風に言われてる気がした。
あたしだって嬉しい…けど
「き、緊張が…」
さっきから心臓が口から出てきそうなほどなんですが…
「このまま時が止まっちゃえばいいのに」
なのに、金田は相も変わらず余裕なようで。
そこに少しだけモヤッとする。
あたしとこんな狭いところに2人で…緊張してるのは、意識してるのはあたしだけ?
「そんな現実逃避みたいなこと言わないの」
八つ当たりするみたいに言い放ってしまった。
本当はこんなこと言いたいわけじゃないのに緊張が邪魔をする。
「じゃあ…優愛がこのまま俺の傍にいればいいのに」
どうしてこんなにあたしがほしい言葉を言ってくれるんだろう。
あたしが言いたい言葉を言ってしまえるんだろう。
「金田…?」
それにしても今日の金田はいつもよりちょっとおかしくて。
こんなにストレートに言葉を伝えるような人だった?
それに、こんなに甘い言葉…
「…千景。千景って呼んで」
「あの…」
弱々しく、でも真っ直ぐ見据えたように発する金田。
「呼んで。優愛の口から千景って呼ばれたい」
「………千景」
あたしがそう言うと、今まで見たことがないくらい幸せそうに微笑んで
「こんなに名前を呼ばれるのが嬉しいなんて思わなかった…
生きてて、良かった」
って優しい声で言う。
それはいつしかあたしが言った言葉。
『嬉しいこと、楽しいこと、生きてて良かったって思える瞬間に出会うため』
金田──千景のその瞬間にあたしが関われたことがすごく嬉しい。
千景に出会えて……良かった。