昇降口に着いた私は異常に気付いた。下級生の下駄箱の周りには誰もいない。よく見ると誰も靴を履き替えていない。


今日は全員休み!?そんなこと聞いてないけど……あのゲームと関わりがあるに違いない。


広がって上っていた下級生がいない廊下はすっきりとしていた。


「おはよう」


「おはよう……」


皆不安そうな顔で私と目を合わせる。


「皆、二日間は合唱コンクールのときと同じくらい、ルールを守って行動しよう!先生に何も言わせてやるな!」


教壇に立って呼びかけた。
頼れる先生もいなくなった。だから女子のパートリーダーであった私が、皆を引っ張る。


「何だよ急に、またいつもの目立ちたがりかよ!」


そう悪態をついたのは小沢だった。


「人が二人死んでるのによくそんなことできるな。死人も踏み台にするのか?」


「違う!私は皆で生き残りたいから……」


「その甲高い声とか大げさな動きとか、どう見てもいつもの目立ちたがりだろ!」


これは地声だし、大げさと思われがちの動きも私の癖だ。本当の自分なのに目立ちたがりと非難され、私は深く傷付いた。


ダメだ、こんなところで屈してたら生き残れない!


「これが目立ちたいから取った行動に見えるのですか?」


「は?」


「目立てば殺されやすくなる。先生に何も言わせてやるな、なんて大胆な発言をすれば、先生に目をつけられるでしょう。この状況で目立つことにメリットはない。岩手さんは元から声が高いし、オーバーと思われやすい動きは演劇のときの癖でしょう。あなたこそこの状況にのっかって人を非難しているのではないですか?」


「うるせえよこのクソ陰キャ!」


家頼さんは小沢を冷ややかな目で見ていた。


「小沢は黙ってろ!じゃなくて静かにしててください!」


そう声を上げたのは藤山さんだった。


「いいよ、続けて!」


そう笑顔で手を振りながら言ったのは、合唱コンでピアノを弾いていた真壁さんだ。


「規律を乱さなければいいんでしょ!なら、お互い危ない行動はないか注意しあって、生き延びようよ!ということで危ない行動はこれで最後にします!最後は無事に校門をくぐり抜けよう!」


私は教壇から降り、自分の席に戻った。


「流石パートリーダー!ついていくよ!」


「ありがとう。私、頑張って生き延びようと思えたよ」


私はそのとき、勇気を出してよかったと思った。そしてこの人たちと生き残りたいと思った。


それにしても、家頼さんはいつになく饒舌だった。クラスメイトの死が、家頼さんを色々な意味で変えてしまったのか……。