「優御、お疲れー」


昇降口には、いつもの様に手を振る奈可がいた。


「お疲れサマー!」


気付かれないように、学校帰りの私を作る。
あ、何を話せばいいんだろう?いつもならぽんぽん出てくる話題も今日は出てこない。
昨日は何を話したっけ?ていうか今は楽しく話せそうにない。


頭をうめつくしているのは、とてもじゃないけど話せないような、残酷な事件。
沈黙に耐えきれなくなった奈可が口を開いた。


「あのさ。今日はどうだった?」


「どうだったって聞かれても……ああ、自分の進路をプリントに書いたよ。それで、卒業生の練習は無し。奈可のところはどうしてたの?」


早口で無害な出来事を挙げていく。
他のクラスは、信じてた先生に裏切られたりしてないんだろうな、と思っていた。だからなんてことない今日を繕ったのに……。


「奈可……?」


奈可は俯いて震えていた。
これはただ事ではない。奈可がまだ言葉にできない残酷な出来事を察し、顔を向けながら駆け出した。


「ちょっと公園のベンチで話そう!」


私たちは左に曲がり、坂道を駆け下りた。