卒業式は市民会館で行われることになった。卒業式は思い出がある体育館でやりたかった。
捜査のためと言われたら仕方がない。


「いや~きつかったな」


千代田が後ろで腕を組み、苦笑いする。
座り続け、一斉に立って、何度も歌いのどを酷使する。式の練習を侮ってはいけない。結構ハードな練習だ。


「志望校も合格したよ。ノー勉に近くても以外といけるものだな」


「嘘つけ、直前まで頑張ってただろ」


千代田も仙道も俺も無事合格。進路が決まったあとで卒業する。


「桜だ。ちょっと咲いてるぞ」


俺が枝を指さす。


「式の時にはどれくらい咲いてるかな?」


千代田が枝を仰ぎ見る。


「わっ!」


「おうっ!誰だっ!」


仙道はこんなことするやつじゃないし、千代田はすぐ隣で桜を見ていた。


「この前はありがとう!本当に助かった……。これ、靴下」


不意打ちで来たから悪戯っぽい表情をしているかと思いきや、安心したように笑う霧生だった。そしてあの日の靴下が戻ってきた。


「無事でよかった……」


体から力が抜ける。


「へへっ、そういえば体育のときいなかったよね?何があったの?」


「色々あった。話すと長くなる。あと、霧生の靴下返すの忘れてた!」


「靴下は警察が見つけたから大丈夫。それより長くていいから話してよ」


「仙道と俺はある計画を立てた、その計画とは……」


俺が話す流れだったのに千代田が割り込んできた。千代田が話すと俺以上に長くなる。
すぐに仙道が、千代田は話が長いから止めろ、と言った。


「今日は疲れたし。明日にしよ」


「そうだな」


顔を見合わせ、苦笑いする。
四人と別れ、列の一番最後の木を見る。さっきまでこの木の上に鳥たちが集まっていた。鳥が他の木より多く、咲いている花は一番少ない。


鳥がつぼみを食べているんだ。
満開の季節になったら木の一部がはげている、なんてことは見たことがないし、いくつ食べられたかなんてわからない。この鳥は生きるために食べているから仕方ない。流石に何本もはげたらがっかりするけど。


綺麗に咲く期間は短い。卒業式に枝が桃色に染まっていたら、入学式では地面が桃色に染まる。


俺は生き残っていけるだろうか。
理不尽すぎる理由で芽を摘み取られていった人を思い出す。


デッキケースを取りだし、一番前の祥瑞を取る。


俺はこのカードがまたボロボロになるまで生き抜く。 
大人になったら年も性別も関係なく、人を惹き付けるカードゲームを作りたい。この昔からの夢を叶えてやる。


もちろん、機械系のイラストも入れよう。……真地野、お前にイラストを描いてほしかった。