家に帰ってから、私は紙に文章をまとめていた。
お母さんにわかってもらうため、わかりやすく、そして勢いをつけて説得しようとした。


「よし」


納得がいく出来になったから、机にドンと置いた。
そしてその後は寝転びながらゲームをする。
もうすぐ卒業だなあ……記念に絵を描こう。


起き上がり、リュックサックの中からペンポーチを取り出す。
あのことを忘れている訳ではない。けど、ずっと考えると辛くて、吐きそうになって、不安の渦の中へ引きずり込まれそうになる。


描こうと思ったけど、筆が進まない。
机に突っ伏し、何度も消した下書きを見る。


鮮やかな色を想像したり、笑っている人の線を描いても、これじゃないと思った。
こんな幸せそうな人がいるの?辛いことが何一つなかったかのように笑えるの?


平和過ぎて架空の世界なのに違和感があった。ていうか、私たちのこの状況が異常なんだ。
現実と絵の区別ができないなら描くべきじゃない。


私は鉛筆を置いて、机から離れた。


そうだ、引きこもりのギャグ漫画を読もう。明日の引きこもり生活に希望を持てそうだから。


漫画では、嫌なことを徹底して排除したがる主人公が、限られた生活圏の中で理想郷を作ろうとする。
理想郷とまではいかなくても、今私は安全地帯にいる。