卒業式は延期という放送が流れ、教室に荷物を取りに行く。
下では下級生の不安がる声が聞こえた。


この日に校門を出ていながら、卒業証書もアルバムも持っていない。


「金持ってきたか?」


「うん。昨日の教訓で」


「持ってきた。帰りにガチャってやる」


「あそこの喫茶店行かないか?帰り道に見て行きたいって行ってたしな」


千代田がにやりと笑って提案する。
このまま手ぶらで帰るのもあれだし、ちょっと落ち着きたいし、行くことにした。


レトロな木のドアを押すと、エプロンを着たおばちゃんが迎えてくれる。


「いらっしゃい」


案内されたテーブルに行き、リュックサックを下ろした。


「中こんな感じなんだな」


仙道が店内を見回す。
俺はお冷を飲んで一息ついた。仙道は黒ずんだ爪を見つめたあと、目を伏せた。念入りに拭き、たたんでテーブルの上に置く。


「モーニングもあるけど、流石に食べたばっかりだしな」


メニューを広げて千代田が言った。
さて何にしようかな。昼もあるしがっつりは食べない。


桜ケーキか。本当に卒業した時まで残しておこう。いつになるかわからないし、その頃には期間が終わっているかもしれないけど。


俺はいちごタルトとりんごジュースにした。


「決まったか?」


「ああ」


「うん」


確認が取れると千代田は呼び鈴を鳴らし、店員さんを呼ぶ。


「コーヒーとサンドイッチ」


「コーヒーとシフォンケーキ」


「俺はいちごタルトとりんごジュース」


店員さんが厨房にメニューを伝えにいく。


「可愛いもん注文しちゃったな」


「安心しろ、仙道もシフォンケーキだ」


こんな会話をしたけど仙道は睨み付けることなくお冷を飲む。