卒業式の朝だ。
ふらふらと洗面所に向かう。


「寝癖ついてるから直しときなさい」


カメラを持ってバタバタしていたお母さんが言った。
鏡を見ると前髪が盛大にはね上がっている。水で濡らし、手ぐしですく。
前髪が元の位置に落ち着いたのを確認して、冷たい水を顔に勢いよくかけた。
後から、顔を洗ってから前髪を直せばよかったと思った。


朝はパンとヨーグルトとサラダだった。


「学校に行くのも最後ねー」


お母さんが制服姿を眺め、感じ入った様子で言う。


「うん」


ジャケットの袖に腕を通し、リュックサックを背負う。


「いってきます」


「いってらっしゃい」


家を出て、鳥の鳴き声と朝日に迎えられる。


卒業式、ちゃんと動けるか不安だ。
練習出来てないというのもあるし、行方不明にされている女子の名前を飛ばされたら、声が出なくなるだろう。


真地野、お前の名前が呼ばれなかったら、ちゃんと声を出せる気がしない。


それは仙道も同じだろう。あの子は本当に大切な存在だったんだろう。よほどのことがないと、仙道はあそこまで潰そうとしない。
千代田は普段冗談を言ったりして笑わせるタイプだけど、内心はかなり苦しんでいる。