「ちっ。確か一人はこの辺に逃げたな……」


部室から離れ、俺が逃げた方を探す。
クローゼットには見向きもせず車の後ろを探す。


「どこだぁ……?」


そのまま奥へ進んでいく。
逃げ込むわけがないと思ったんだろう。遺品が入ったロッカーになんか。それとも焦らしてプレッシャーを与え、自分から出てくるのを待っているのか?


いつまで経ってもここを探そうとしない。もしもロッカーを開けて血がついた服や筆箱が入っているのを見れば、叫び声を上げるとでも思ったらしい。こっちは遺品が入っていることを知っていた。


血のにおいがこもっている。知らずに入っていれば耐えきれずに逃げ出していた。


「校舎に戻ったか?他の先生方にも連絡せんとなあ……」


ロッカーの側に来て一瞬ドキリとしたけど、近くのドアから入っただけだった。
ガタンと閉まった音がしてからしばらく待つ。


外には誰もいない。
俺は部室をノックし、千代田を呼び出した。


「行ったか?」


「うん。とにかくこの学校から出よう」


仙道が出ていった穴から出る。
道路でどうするか話し合う。


「思い切って大人数で反乱を起こすのはどうだ?」


「ダメだ。人が集まらない。噂によるとスパイもいるらしいし、うっかりスパイを誘ったら即失敗だ」


千代田に却下された。


「ところで仙道はどこだ?」


「わからない。逃げる方向までは指定してなかったからな」


千代田は首を振り、肩を竦める。


「ここだ」


すると、仙道が歩いてきた。


「仙道!?どこにいたんだ!?」


「あそこの幼稚園。ままごとで遊びながら園児に匿ってもらった」


「仙道、お前誘拐犯の素質があるぞ」


千代田が冗談を言うと仙道に睨み付けられ、首を引っ込めた。


そこで俺は「二回目、行くか?」


「作戦を練り直す必要があるぞ……」


「そうしたらいつになる?俺と能取で押さえて、千代田が見張ればいい。今度は時間をかけなければいいんだよ。脛を蹴ればすぐには逃げ出せないから……」


「仙道」


千代田が手段を選ばない仙道を諌める。


「まあまあ、とにかく書くものが必要だろ?誰かの家に集まるか、学校に戻るか……」
 

「そうだな。仙道の家が一番近いから、いいか?」


「ああ」


俺らは仙道の家に行くため、坂道を下りた。