「いった……」


強打した部分を撫で擦る。ここは校舎から体育館に出るための通路だ。
左にいる二人を見ると、千代田は膝を打ち、苦しそうにうずくまる。俺らを引っ張りながら勢いよく倒れたようだ。


「千代田!保健室行くぞ!」


そう声をかけて千代田に肩を貸し、保健室まで連れていこうとした。
そのとき仙道が千代田の顔を力一杯殴った。


「なんであのとき止めた!なんで俺だけ連れて逃げた!止められたかもしれないだろ!」


仙道は馬乗りになって殴り続けた。


「やめろ仙道!千代田にも考えがあるのかもしれないぞ!ここで仲間割れしても仕方ないだろ!」


二人の間に腕を伸ばした。


「千代田、俺が高田さんのことをどう思っていたか、気付いてたんだろ?大切な人を見捨てて生き延びて、黙っていると思うのか?」


「気付いてたさ。けどな、あのとき止めなかったらどうなると思う?先生がハサミを落とせばいいが、離さなかったら倒れこんだ先生が上にのることになるぞ。もしかしたらハサミが高田さんに刺さるようなこともあるかもしれない。まだ方法はあっただろう。力は一瞬で、多くのことを変える。しかし何も考えずに使い続ければ、変わりすぎて手に負えなくなるぞ」


「作戦も……高田さんを助けるために……」


「わかっている。今から仇を討ちに行くぞ。スイッチは奪えなくても、授業を短縮して、生徒を殺す機会を減らすぞ」


千代田はよろよろと立ち上がったが、普段の猫背からは想像できないほどまっすぐに立った。


「今からか?作戦は放課後に行うことを想定して立てたんだぞ。いけるか?」


仙道が制服についた砂を叩き落としながら聞く。


「大丈夫だ。授業中は職員室や教室にいることが多いからな。見回りの先生に遭遇する可能性は低い。見つけることが出来れば放課後よりやり易いかもしれない」


問題はここから去っていった先生を見つけることだ。


「索敵が重要だぞ……他の先生に気付かれて指導されるようなことは避けろ……!よし、見つけたらこれで連絡してくれ」


仙道と俺はスマホを持っていないから、音質は悪くなるけど通信できる録音機を使う。
ずっと昔の、仙道と千代田もカラカラを読んでいたときの付録だ。


死体を運ぶからおそらく一階にいる。仙道は外、千代田は東校舎、俺は西校舎を探す。