パニックを起こして逃げ出す人が出てもおかしくないのに、掃除が終わってもみんな教室から出なかった。下手に行動する方が危険だ、ってちゃんと判断できていた。


今日帰りの会は無かった。
担任の日山先生が来たら問い詰める、という話が出たけどそれはできないようだ。


「女子がやったら目をつけられるかもしれない。俺らが聞いてくる!」


とても無鉄砲なことに、深見たちがリュックサックを背負い、教室を飛び出した。
本当に男子は標的にされないんだよね?困ったやつだったけど、死んでほしくない。


不安を抱きながらも深見たちに任せ、私は教室を出る。暗い表情をした三年生たちが階段をぞろぞろと降りる。
昇降口で待っている友達二人を見つけ、私は持っていたスニーカーを床に落とす。


足を入れ、上靴を下駄箱に入れる。


「おまたせー」


「行こっか……」


二人も沈んだ表情で、何があったのかを理解した。
訳がわからない。他のクラスでもあったということは、殺そうとしてくる先生は一人じゃない。学校外の人が知ったら大事件になるはず。


絶対逮捕されるのに殺す理由は?
生徒が騒がしいから殺すなんておかしい。他に理由があるはず。


校門を出てしばらくしたところで、古屋 愛実(ふるや あみ)ちゃんが口を開いた。


「あのさ、春菜ちゃんのところも爆発があった?」


愛実ちゃんが私の目を見つめて言った。曇りの日だから愛実ちゃんの長いまつ毛は影を落とす。


「うん。五人……去年同じクラスだった花田さんも」


愛実ちゃんが唇をきゅっと結び、目をそらした。


「私たちのクラスでは、二人……先生の話の途中にしゃべってて……。高島先生、なんで……」


小柄で怖がりな逢坂 可八(おうさか かや)ちゃんは声を震わせた。
話を聞かないのはいけないことだけど、殺さなくてもいい。注意したら黙るのに……。


「休みたい」


「休んでいいと思うよ。そうだ!皆で休もう!」


愛実ちゃんは本音を発した可八ちゃんの背中を撫でる。そしてパッと笑顔を見せながら声をかけてくれた。


「可八ちゃん、愛実ちゃん!今こそ電凸だ!親に言えば問い詰めてくれるよ!警察にも通報して、卒業式前に危険な先生は排除しよう」


「えっ、排除?」


二人が顔を見合せ、苦笑いする。
何かあると、私がふざけて過激なことを言い、二人が苦笑いする。たまにのってきてくれることもある。


この光景を残すため、生き残ろう。
休んで、先生の手が届かないところに行こう。