俺は能取 千里(のとろ せんり)だ。志望校は余裕と言われていたが、やっぱり心配な普通の受験生。


受験は終わったから今さらどうこう言ったって仕方ないけどな。
俺は机の引き出しに手を突っ込み、カードをシャッフルしていた。よし、これだ!


燃え盛る火龍だ。
デッキに組み込むカードで迷ったから、シャッフルで決めていたんだ。
忘れたり見つかるとやばいから、見られていないのを確認して、さっとカードケースの中に入れた。


早く帰りたい。隣の家の朝君にデッキを見てほしいと言われていたんだ。
あーガチャりたい。近所のスーパーはレアが出やすい気がするから、いつもそこで引いている。


細長い自販機に百円を投入し、白いハンドルを回す。
独特の手応えと、徐々に出てくるカード。白い紙帯を外し、楽しみにしていたカードを見る。


早く帰りたい。ガチャを回したときのドキドキを思い出すと一層帰宅が待ち遠しくなる。
カードから手を離すと禁断症状なのか落ち着かなくなってきた。
まだ先生は来ないよな?だったらもう一回、激震するグリーフラインを見ても……。
カバンの中のカードケースに手を伸ばしたとき、ドアが開いた。危なかった……。


即座に手を引っ込め、姿勢を正す。
全く何の用だよ。卒業式の練習しないなら、受験も終わったんだし帰らせてくれよ。学ぶこともないだろ?


そういえば、何で卒業式の練習やらないんだ?
朝の会もなく、黒板に教室にいろと書かれていただけだった。


大事なことに気付いたときにはもう遅かった。
これから俺たちは、地獄を見せられることになる……。