体育館は捜査が続くので、市民会館で卒業式を行うことになった。
市民会館での練習後、私は桜の木の下にいた。


新しい場所で練習できるのは三日とは、詰め込みすぎ。
その代わり一日の練習する時間が長いので疲れていた。
座り続けるのもしんどいし、のどは痛いし……。


他より早く咲いた桜を見る。まだ完全には開いていない。
早く咲いたら早く散るんだな……。入学するときの桜はまだ綺麗かな?


愛実ちゃんと可矢ちゃんは、卒業して証書を受けとることも、高校生になって自由に遊ぶことも出来ないんだな。


私はどんどん年を経ていくのに。


誰かが歩いてきた。長い髪が揺れ、Jの文字が煌めいた。


「茜ちゃん」


ダイヤが奈可ちゃんで、ジョーカーは茜ちゃんだった。


「桜、ちょっと早いよね」


私の横に来て、他より桃色に染まる枝を見上げた。


「うん……」


「私がもっと勇気を出していたら、他の人も見れたのかな?」


もっと勇気を出していたら。私と同じ後悔だ。


「初日に日山先生がいないし、おかしいと思って職員室に行ったんだ。そこで深見たちの話を盗み聞きしてた。深見たちがいなくなった後に見つかって……。殺されない人の条件を聞いた。私みたいに家政科を受けた子や大学に進学しない子、女らしい子は優遇されるって。けど、それは口止めされてた」


助けられるかもしれない情報を抱えたまま動けなかったんだ。
茜ちゃんは私以上に後悔し、私以上に恨まれるかもしれない。


「学校に来ないと死ぬと聞いて、深見たちはスマホと校内の公衆電話を使って情報を流した。それを最初に受け取った友達が電話やアプリで情報を伝えていった。奈可ちゃんは電話番号を知っている人に流した。女子が流せば殺されるかもしれないのに。奈可ちゃんは先生に疑われて、問い詰められた。けど、深見の命令と言って切り抜けた。すごいよね」


奈可ちゃんの勇気にも尊敬した。先生の狙いを知らなかったはずなのに、男子には逆らえないということを利用した。奈可ちゃんは大事なところで決めてくれる。


奈可ちゃんに教えてもらえなかったら、私は絶対に休むつもりだった。


「いつも自分は関係ないって生きてた。そうした方が生きやすいと思っていたし、必要なことだと思ってた。けど、苦しい」


いつも他人を気にしなかったのは茜ちゃんの良いところでもある。今回はそれが悪い方向に進んだ。


滅多に泣かない茜ちゃんの背中を擦り、生き残って終わり、じゃないと再確認した。