石鹸で誤魔化しても血のにおいがする。あれだけ洗ったんだし本当はしないのかもしれないけど、鼻にこびりついている。


冷たくて痛い手を暖房が効いた教室で温める。


「おつかれ様」


手をこすり合わせる私の頭上から声がした。


「茜ちゃん……ねぇ、ちょっと頭下げて」


私が手招きすると、横に来てゆっくりと腰を下ろす。


「大丈夫な方の人って、進路が決まっている人のこと?」


私が耳打ちすると、茜ちゃんはしばらく沈黙した後、顔を近づける。


「それも少しは関係してるけど、そうじゃない。ヒントは……らしさ、かな。これ以上は言えない」


らしさ?自分らしく生きているかで決めている?
いやいやそれはない。だって花田さんは行動が自由で、その飾り気のない言動が好きだった。


でもああ見えて、姿を作っていたのかな?高いテンションや素直な言葉も、花田さんというキャラに従った結果かもしれない。


茜ちゃんは少し傍若無人なところがあって、一部の人との間に溝が出来ていた。今日の服装検査の一件でその溝は深まった。


私は……結ぶのが面倒でいつも肩より上の長さの髪。スカートも折ったことがない。がさつな言動で時々友達を引かせる。


確かに飾り気はない。ありのままに、私らしく生きている。
じゃあなんで、らしく生きていない人を殺そうとするの?


自分を偽る人だって、目標としている姿や周りが思う自分らしく生きている。
少し付け足す方が生きやすいってこともある。それを否定するべきではないのに。


私は一つの仮説を立てた。
この国は自分の意見が言える人物を育てたいらしい。だから、周りに合わせる人物を排除し、少しレールから外れる人物を残そうとした。
その人物を自分の意見が言える人に育てるつもり……。


いや、花田さんも枢木さんもクラスのムードメーカーで、合唱コンクールでは女子をまとめあげていた。
本当に目的がわからなくなってきた。


私は頭を抱え、うう……と唸る。


「早めに行った方がいいかも。もう外に出よっか」


「そうだね」


私はうなずき、茜ちゃんは可奈ちゃんを呼んだ。