制服がいつもより重く感じる。
ジャケットはうっすら火薬と血のにおいがする。吐きそうになってまた手で強く押さえた。


「いってきます」


「いってらっしゃい」


お母さんの顔を見れなくて、背を向けたまま出発した。
見慣れた赤い屋根の家を見上げる。小さい頃はもっと大きく見えたけど、今見るとなんだこんなもんかと思ってしまった。


重い足取りで待ち合わせ場所に向かう。待っている三人もきっと、暗い表情をしているんだろうな。


待ち合わせ場所である街灯の下で三人が待っていた。
愛実ちゃんと可八ちゃんはうつむいていたけど、弓槻 茜(ゆずき あかね)ちゃんはいつも通りに見えた。


茜ちゃんは赤い自転車を引いている。私と同じクラスの友達で、たまに私たちと一緒に登校する。帰りは自転車でぴゃーっと行っちゃうんだけど。


「おはよー、行こっか」


ひらひらと手を振って歩き出した。
茜ちゃんも見たはずなのに、どうして躊躇なく一歩を踏み出せるの?


「嫌だ……行きたくない……」


可八ちゃんが涙ぐみ、頭をかかえた。


「私も。でも、行かなきゃ死ぬんだよね……」


愛実ちゃんがマフラーを握りしめた。


「そうだね。行かなくても死ぬし行っても死ぬ。まあ、私は死にたいって思ってたからいいけど」


茜ちゃんはあっさりと言い切った。
茜ちゃんは時々死にたいと言っていた。でも私はそれが本心だと思っていない。


「そんな……親も悲しむし……やりたいこととかあるんだよ!?」


「あるっちゃあるけど、別にこだわるほどのものじゃないな。あーでもアニメの最終回は観たいかも」


軽い調子で言い放っているように見えるけど、本当は違うと思う。昨日廊下で見かけた時、涙は流さなかったけど、悲しい目をしていた。
茜ちゃんはきっと、感情を表に出さないようにしてるんだ。