礼をしてから着席し、また曲が流れる。
言われた通りよそ見はしない……生徒もいたが、保護者の方に向かって笑顔を見せる生徒もいた。

よそ見はするな、泣くなと今までの練習で教えられてきた、理想的な卒業式は崩れ始めていた。


泣いても、少しよそ見をしても台無しにはなっていない。先生が示した理想から離れても、これはこれで良い卒業式だ。


先頭に先生がいないクラスもちゃんと見えなくなるまで歩ききった。その途端、中からは見えないところで列を崩し、はしゃいだ。


最後のクラスが出てくる頃にはそれぞれ友達と過ごしていた。
その中で八組の女子は円を作って話していた。


「生きてここまで来れてよかった……」


一人がそう言うと、同意の声が続く。晴れ渡る空の下で生きている喜びを噛みしめていた。少しでも間違えていれば今こうして喜ぶことはできなかったかもしれない。そんな奇跡を感じていた。


「さっ後輩たちに会いにいくか」


部活の後輩たちが入口付近で待っていると聞いていた。生き抜いてきたクラスメイトと別れ、優御は人でごった返す入口付近に向かう。


「副部長、ありがとうございました!」


「岩手先輩!これどうぞ!」


後輩たちが色紙と小さな袋を差し出した。


「ありがとう!これからも活動頑張ってね!」


リュックサックに入れたくてもここでは入れることが出来ない。抱えながら隙間を見つけて外に出ていく。


人が少ない隅の方で止まり、色紙のメッセージを読む。上達したイラストと言葉から伝わってくる気持ちに感激した。
小さな袋の中には飴が二つとハンカチが入っていた。可愛い花柄のハンカチを眺めていると、突然大きな影がかかった。


「晴哉」


「優御も後輩からもらったのか。嬉しいよな」


晴哉はメッセージが書かれている卓球のラケットを持ってはにかむ。


「うん」


晴哉、大きくなったな。こっちはしゃがんでいるから余計に大きく見える。


「あのさ、受験だからって一方的に振っといてなんだけど……」


晴哉は第二ボタンに手をかけると、千切って手にのせた。


「受け取ってくれるか?」


「……うん!」


自分だけが好きなんじゃないかという不安をとかしてくれた。
宝物たちをリュックサックの中に入れ、二人並んで歩く。
私と同じで書くことが好きだった家瀬さんは、桜の上にいるのかな?


三人の顔を思い浮かべた。私、無事卒業して、その先の幸せを知ることができた。
この幸せを無駄にはしない。