卒業式は市民ホールで行われ、外はマスコミが詰めかけていた。
生徒の席ももちろんだが、教員の席はかなり少なくなっていた。


卒業証書の授与。若い先生が名前と文を読み上げた。卒業証書は全員分用意されていた。


「青葉 春菜」


「はい」


傷跡が残った春菜はまっすぐ前を向いて壇上に上がる。モニターに春菜の顔と将来の夢が映し出された。
漫画家になって、読んだ人を笑顔にしたいです。


「神坂 奈可」


「はい」


奈可は緊張していたが、それを表には出さない。
人を夢中にさせるアニメを作りたいです。
奈可は証書を受け取っても降りなかった。


「川良 明美」


差し出された証書を受け取る。亡くなった生徒のものは、後でそのまま保護者に渡すか、仲が良かった生徒が許可を取って代わりに受け取った。
バレーボールの選手になりたいです。目指せ金メダル!


「弓槻 茜」


「はい」


卒業式に合わない、厭世的な雰囲気を纏いながら上がる。
美容師になって、お客さんに似合う髪形を見つけ、自信を持てるようになってもらいたい。


「逢坂 可八」

春菜は再び壇上に上がる。可矢の名前が書かれた証書が目の前にある。
もう疲れた……と、これを手にする未来まで奪った事実に怒りが湧きあがった。

薬を開発して、病気の恐怖や苦しみから救いたい。


「古屋 愛実」


最後に私が生きることを願い、言葉にしたのを思い出した。私は二人の分の卒業証書を受け取った。
簡単には死ねない。二人の未来を切って繋げて、私の未来を生み出したんだ。
アニメや漫画に関わる仕事に就いて、大人になっても中学の友達と語る。


「仙道 神威」


「はい」


前を向いて進む仙道は力強い視線でモニターを突き刺すようだった。
大切な人たちと一緒に、平穏に過ごしたい。


「千代田 上利」


「はい」


事件前に行った練習時の謎の笑みは消えていた。
理想的な仕事のスタイルを見つけ、全体の効率も上げていく。


「能取 千里」


「はい」


歩いている途中、モニターに書かれた夢を見ていた。この夢は、以前より強く叶えたいと思うようになった。
面白いカードゲームを作って、多くの人に楽しんでもらう。


「真地野 礼名」


真地野の友達が涙を拭いながら上る。受け取る手は震え、目の下に留まっている涙がこぼれ落ちそうになっていた。
イラストレーターになって、かっこいいと思うイラストを描き続けたい。


「高田 輝石」


仙道が立ち上がり、今にも泣きそうな顔で受け取った。
輝石の友達もいたが、私にはもうその権利がないと言って仙道に任せたのだった。
両親の店を継いで、私が作った料理で満腹になってもらいたい。


「岩手 優御」


「はい」


クラスの一番初めにふさわしい、まっすぐに響く声だった。練習通り受け取り、椅子に座る。特に失敗もなかった。ほっと胸を撫で下ろしそうになったが、まだ終わっていない。


「家頼 輝前」


優御は卒業証書を受け取り、唇を巻き込むように噛んで涙を堪えた。
小説家になって、青空賞をとる。


卒業証書の授与が終わると曲が切られる。流れていた優御たちの合唱は、スピーカーの中に引きずり込まれるかのように引いて、消えた。


式辞は当たり障りのないものや、政治家を代表しての謝罪から入る内容もあった。こらまでなら必ず呼ばれる市長や教育委員会の教育長は責任を問われ、教育にはあまり関わらず、謎の政策に共鳴していなかった人だけが役目を受け続けた。


式辞が終わると起立して合唱に移る。女子が担当するソプラノとアルト、男子が担当するテノールのバランスが取れなくなっていた。女子をソプラノに、男子をアルトに移動させる案も出たが、音程を覚える時間も足りないということで、女子は全員ソプラノになった。


練習では式が終わるまで泣くなと言われていた。しかし涙を流し、声にならなくなる生徒もいた。
今はもうそれを注意した先生もいない。