『田原颯様』
それは、
彼女の丁寧な字で記されていた。
『お元気ですか。颯くんと話すのは、少し久しぶりな気がします。多分、迷っていなければ、音色が届けてくれてこの手紙を読んでいると思います。
颯くん、私は君にひとつだけ嘘を付いていました。
怒るかな?怒らないでくれると嬉しいな。
君と初めて出会ったのは中庭じゃない。私はもっと前から君を、ううん、田原颯という人を知っていて、ただずっと憧れていました。』
憧れてたってなんだよ..!僕は思い返しながらただひたすら走る。
『昔から病弱だった私は、姿も見たことない貴方の絵にずっと憧れを抱いていました。
たとえ偶然だとしてもあの時、颯くんに出会えたことは運命だと思いました。
貴方の絵はボロボロだった私の心にまた音を授けてくれた。
フルートをまた、吹かせてくれた。』
涙で滲んだ彼女の文字。