「母さん、いつもありがとう、俺のこと、産んでくれてありがとう…」


「…急に、どうしたの、、」


「別に、言いたくなっただけだよ。…じゃあ、行ってくるね、母さん」


恥ずかしくて、照れ隠しでニッと笑う。


名残惜しいけれど、溢れたものがこぼれてしまいそうで、急いでドアを閉めた。


それでも一瞬隙間から見えた母の頬は濡れていて、とても幸せそうに笑っていた。

最後になるであろう、母親の顔が、その顔でよかった。


うん、じゃあ、母さん。



今まで、ありがとう。



玄関のドア越しに深く頭を下げた。


その拍子に一粒こぼれ落ちたものを拭って踵を返す。



「行ってきます」



俺は空を眺めながら、ゆっくりとバス停へ向かった。