「瀬那……」
歩道を歩く人の流れに逆らって、こちらに向かって走ってくる瀬那の姿を見つけて、心臓がうるさく高鳴り始める。
「あーあ、これってハッピーエンドな感じ?」
「……わかんないよ。いよいよ、婚約破棄かも」
「なに馬鹿なこと言ってんだよ。まぁ、俺はそっちの展開の方が嬉しいけど」
ニッと笑って私を見る瀧の顔はやけにスッキリしていて、なんの迷いもない透き通った目をしている。
「……私、ちゃんと話すね」
「おう。大丈夫、お前にはみーんながついてる。なんも怖いもんなんてねぇよ」
「じゃあな」と、続けて私の背中をトンッと押した瀧。そのせいで私の足は数歩前へと進み出た。
その瞬間、目の前には息を切らした瀬那の姿があって、背後からは瀧の歩いていく足音だけが聞こえる。
「瀬那……」
───グイッ
名前を呼んだ瞬間、強く腰を引き寄せられてそのまま瀬那の胸の中に飛び込む。
「待って……っ、なんも言うな……」
ずっと走ってきてくれたのか、瀬那は肩で息をしていて、まだ呼吸が整わないらしい。
私を強く抱き締める腕が、こころなしか震えている気がした。


