バレンタインデー前日の夜。

白いレースのエプロンを身に付けた雪菜は、「チョコ、チョコ♪ ハート、ハート♪」と楽しそうに歌いながら冷蔵庫から固めたクッキー生地を取り出した。

クッキー生地にはチョコチップと砕いたナッツが練り込まれている。

甘いのがあまり好きではないという竜哉のためにチョコはビターだ。

ハート形に型抜きをしていくが、ふと手を止めて、ソファに座らせている大きなくまのぬいぐるみを見る。

このぬいぐるみは『くま子』という名が付いている。


「くまの形にしてもかわいいかも。くま子クッキーにしようかな。あ、でも! くま子を食べられるのはイヤだな」


くまの形をしたクッキーを食べる竜哉を想像して体を震えさせ、首を横に振った。


「ダメ! ダメ! くま子を食べちゃダメ!」


結局くま形はなしにした。