「咲誇が何でそんなに気になるのか。
その理由、自分でも薄々気付いてんじゃねーの?」


「...圭太なら分かるだろ。俺には、そんな資格が無いってことくらい」


「んー...」




考えながらビールに口をつけた圭太の視線は、咲誇の方に向けられていて。


何を見ているのだろうかと気になる俺がいる。


...本当に、どうしたんだろうな。

俺が俺じゃないみたいだ。


確かに、少しは自覚してる。


この気持ちの正体に。


だけどそれは、俺が俺に許さないこと。

一生抱かないと決めた感情だ。


今のこの感情は、気の迷い。


しばらくすれば消え去るに決まってる。



そんなことを考えていると、ふと、咲誇と目が合った。


丸くて大きな目が俺をとらえている。


...げっ。

見てたのバレたか。


慌てて目をそらし、でも...静かに戻す。


向こうも視線をそらしただろう...と思いきや。



咲誇は、胸の前で手を振っていた。


少しだけ笑みを浮かべながら、俺の目を見て、小さく手を振るそいつ。


...胸が締めつけられるような、そんな感じがした。


そして咲誇はすぐに真浩と談笑を再開。


けど、そんなことを気にする余裕もなく、俺の頭の中は軽くパニック状態だった。


...え、何?

今、手振ってたよな?


まさか俺に向けてやったのか?