「っ...やめろよ!!」
男の胸を突き飛ばすと、以外にもそいつは呆気なく離れた。
腕も自由。
これでどこにでも逃げられる。
...でも、私は逃げることが出来なかった。
目から落ちる水が、私の視界を邪魔したから。
...何で。
何で私は泣いている?
〝彼ら〟は復讐対象。
なのにどうして、〝彼ら〟を思い出して泣く必要がある?
...いや、違う。
思い出したのは〝彼ら〟ではなく、〝彼ら〟の体温だ。
人のあたたかさ。
この男は、なぜかそれを持っている...。
一人で泣く私を見て、青髪男はわずかに目を見開いた。
「おまえ...まさか、【桜蘭】の姫...?」
「っ、うるさい!!もう違う!!」
「......」
真顔になった男。
数歩、私に近づき、また手を握った。
今度は、さっきまでのような荒っぽさの欠片もなく。
「...来い」
彼はそう言った。
真っ直ぐな瞳を、私に向けて。
「〝俺ら〟のところに来い」
「...何、言って...」
「俺が居場所をやる」
「そんなもの...いらない!!」
「じゃあお前の話を聞かせろ。どっちにしろ、一緒に来い」


