身を固くして構えると、北苑という男はフッと笑った。


胸ポケットからタバコを取り出し、火をつけてくわえる。




「安心しろよ。お前に手出しはしねぇ」


「...なら、私に何の用?」


「まぁアレだ。
ちょっと俺から話があってな」


「私は無い。聞く気もない。さよなら」




蓮央や圭太のいない所で、コイツと下手に関わらない方がいい。

人質にとるような気もないようだし、それなら尚更逃げるべき。


ヤクザと手を組んでる危険な族だから。


そう思い、北苑を振り切って足を進めた。




「──...お前、蓮央が好きなんだろ?」




数メートル後ろから、北苑のそんな言葉が飛んできて。


バカな私は、また足を止めた。


止めざるを得なかった。


...どうしてこの男は、何もかも分かってるの?


それに、何で蓮央を名前で呼んでるの...?


振り向くと、北苑はタバコの吸殻を携帯灰皿に押し込んでいた。


...不良のくせに真面目だとか、そんなことを気にしている余裕はなくて。


心に次々と湧いてくる疑問を抑えながら、北苑の次の言葉を待った。




「どうして知ってる...って顔してんな」




そいつはまたもや不敵に笑い、ヘルメットをかぶった。


ブォォン、と音を立てるバイク。




「...知りたきゃ1人で俺のところに来い。
この堤防を真っ直ぐ行ったところに廃工場があるだろ。そこが俺らの溜まり場だ」


「はぁっ...!?」


「いつでも待ってる。...んじゃ、またな?」




謎の言葉と私だけを残して、北苑は走り去っていった。