休日


「暇だな~」


私はパジャマのままボーッと外を眺めていた

これといって特にすることもない私は、こんな風にのんびり一日を過ごすのが日常だった


ブーブー


「えっ、電話!?」


そんな日常を壊すかのようにバイブ音が鳴り響く


キミからの電話だった


「もっ、もしもし」

「なぁ、ユミ、今日暇?」

「あっ、うん!」

「俺ん家今日家に誰もいないからおいでよ」

「えっいいの?」

「うん、来いよ、待ってるから」


そう告げてすぐに切られてしまった電話を私はギュッと握りしめた


…わかってる

行ったら何をされるのか

でも、それでもよかった

キミがそんなふうに誘ってくれて私は純粋に嬉しかったから


「あっ、××くんの気が変わらないうちに準備しなきゃ」


キミの家と私の家は家は少しだけ遠い

電車で何駅か乗り、長い坂を登ったところにあるアパートがキミの家


私は早足で駅に向かい、キミのアパートに向かった


(もう少しでキミに会えるんだ…)


そんなことを考え長い坂を歩く

登り終わるとキミのアパートが見えてきた


息を切らしながらアパートの階段を登る

キミの部屋のある最上階まで来た時だった

突然私のポケットに入ったスマートフォンが小刻みに震えた


キミからの電話だった


「あっ、もしもし」

「あー…ごめん、ちょっと家の人帰ってきたわ」

「えっ!?」

「だからごめん、帰ってもらえるかな?」

「で、でも、もうアパートに着いたよ?」

「…ほんとごめん、また今度埋め合わせするから、じゃあ」


一方的に切られた電話を私はしばらく見つめていた


「家の人なんて全然すれ違ってないのに…
そういうのはもっと早く伝えてよ…」


私は小さくため息を漏らすと最上階から外を見つめた


「せっかく来たのにな…」


帰ろうとして下の階に向かう

すると、私の後ろに綺麗な女の人が立っていた

高校生くらいかな…?

私と同い年くらいの大人びた女性がそこにいた


目が合い小さくお辞儀をすると綺麗なその人は優しげに微笑んだ


「こんにちは。見慣れない顔だけど…この階にいるってことは××に何かご用ですか?」

「えっ…?」


一瞬頭が真っ白になる

知り合い…なのかな?

それともさっき××くんが言ってたご家族の人?


「あの、もしかして××くんのご家族の人ですか?」

「え?いやっ、そんなご家族なんて…っ」


綺麗な彼女は何故か照れくさそうに視線を落としていた


「まだ、そんなんじゃないですよ」

「まだ…?」


嫌な予感がした

私は意を決して言葉を放つ


「えっと、××くんとはどういう関係なんですか?」


すると綺麗なその人は赤くなった頬をさらに赤らめて微笑んだ


「実は中学の時から付き合ってて、私たち学校違うからなかなか会えなくて…
今日、私が休みって言ったらちょうど誰もいないからって呼ばれちゃったのよ」

「…そう、なんですか」

「ほんと、いつも突然なのよね…」


困ったように笑った彼女を私はただ見つめることしか出来なかった

しばらくの沈黙のあと、綺麗なその人のスマートフォンが鳴り響く

一度のみならず何度も、何度も


誰からの連絡なのか、想像に難くなかった


「あっ…ごめんなさい、そろそろ行かないと…」

「あ、すみません、引き止めちゃって」

「ううん、いいの、ごめんね?立ち話させちゃって」


綺麗なその人はそういって微笑んだ

長い髪をなびかせながらキミの部屋にへと入っていくその姿はあまりに綺麗で私はぐっと涙をこらえた


「…こんなの、勝てっこないじゃん…」


「××くんは私の彼氏です」の一言も言えなかった私がとても惨めに思えた

怒ることも、自分の気持ちを伝えることもできなかった

ひどく、自分が情けなかった


私はしばらくそこから動くことが出来なくて、キミの部屋のドアの前でしゃがみこんだ


部屋の奥から微かに聞こえてくる楽しそうな話し声や笑い声


そう、私だってそんな風にキミと話したかっただけなのに…


本命の彼女にはそうやって接っしているんだね

無理やり身体を求めたりしないんだね


「…っ」

こらえていた涙が溢れ出す



私にはしてくれないこと


本当は私がして欲しかったこと


全部、全部、本命のあの子にしてあげていたんだね


今日だって私じゃなくてあの子を優先したもんね


あの子は身体だけじゃないんでしょ?




「ねぇ…じゃあ私は一体何なの?」




キミにとって私ってどういう存在なの?


なんで本命がいるのに付き合ったりなんてしたの?


勘違いしちゃうじゃん


キミも私のこと「好き」かもなんて




ねぇ…




ねぇ…




ねぇ…




付き合ってくれたのならなんで…





「なんで…っ…私じゃダメだったの…?」