「ふぁ……しゃ、社長は、私のこと……」

「愛してる。もうずっと前から」



言いながらまた指先に口づけられた。頭のてっぺんからつま先まで、身体中を熱が駆け巡る。

のぼせたように足もとがおぼつかなくなってしまった私の腰に手をまわし、社長が支えてくれた。



「おっと。で、真崎、返事は? 聞かせてくれないのか?」



低く甘い声が、耳もとでささやいた。

もう、この人、信じられない。私は彼に掴まれていない左手で、自分の顔半分を覆い隠した。



「なんなんですかもう……私の気持ち、知ってたってことですか……」

「バレてないとでも思ってたか。きみの目は、口よりもモノを言う」



目……そうか、目か……。

恥ずかしいやら情けないやら。ますます顔を合わせられなくて、思わず目の前の胸板にすがりつく。

私の恋情は、とっくに桐島社長本人に知られていて。

その社長が、私を愛していると言ってくれて。

ああ、今日はなんて日。ただの平日として淡々と過ごすつもりが、とんでもないバレンタインデーになってしまった。



「ちなみに。このプロポーズを断れば、今後俺はきみに頼れなくなって朝起きることができず、仕事に遅れることが頻発されると予想できるが?」

「そ、れは、脅しっていうんですよ……」



ひたいをこすりつけながらつぶやけば、頭上で笑う気配がする。



「仕方ない。こう見えて、俺も必死なんだ。きみと仕事するのは純粋に楽しかったから、まだしばらくは社長と秘書の関係のままいようかとも思っていたが」



両肩を掴まれて、少しだけ互いの身体が離れる。

私の顎を捕らえた社長の手に、そのまま上向かされた。



「さっき、きみが夢に出てきたんだ。そのあとで本物を見たら、我慢ならなくなった」

「……どんな夢ですか、それ」

「聞かない方がいいかもな。あえて言うなら、きみを夢に見るのは今回が初めてじゃないし、俺の夢の中のきみはとても素直でおねだり上手の欲しがりだ」



ほんとに、どんな夢だ。聞くのがこわい。

それでも私はありったけの勇気を奮い立たせて両手を伸ばし、目の前にある首もとに抱きついた。