成長著しいIT系企業で私が秘書を務めているのは、経済誌にも『イケメンすぎるIT界の新星』だなんて恥ずかしい見出しで特集されるほど完全無欠・眉目秀麗な若き社長、桐島雪成(きりしまゆきなり)。

いつだって完璧なウチの社長には、ひとつ重大な欠点がある。

それは──。



「社長、朝です。早く準備して出社しないと、朝イチの会議に間に合いませんよ」



今度は布団越しに触れて軽く肩を揺さぶりながら、再度話しかけた。

目を閉じたまま、煩わしそうに眉を寄せた社長が、「あと5分……」とつぶやく。

いや、悠長にそんなワガママきいてられるほど私も暇じゃないんですけどね。ほんとに。

投げられた言葉をスルーし、容赦なく布団を剥ぎ取る。

ようやくパチリと目を開けた社長が、ものすごく迷惑そうな表情で私を見上げた。



「……さすがにひどくないか? 寒くて凍えそうだ」

「なら、とっとと起きてとっととエアコンつけてとっとと支度をしてください。というか、またそんな格好で寝て……」



羽毛布団の下から現れた社長は、まさかのワイシャツにスラックス姿だった。

思いっきり呆れながら見下ろせば、社長が起き上がりながら「着替えるの面倒くさくて」とひとつあくびをする。


いつだって完璧な仕事ぶりで社員を牽引し、その整った顔だちからも社内外で注目を浴びている桐島社長。

優秀な彼の唯一ともいえる欠点は、とんでもなく朝に弱いということ。

そしてそんな社長の自宅へ週に2、3度出向いて強制的に起床を促すのも、彼の秘書になってもうすぐ丸3年になる私の仕事のひとつだ。

……正直こんなの、仕事だなんて認めたくないけど。