「き、京極さん……?」

どうして京極さんがここにいるのだろうか?それは聖さんの友達の京極暁斗さんで、あまりに意外な人物に驚いて思わず、目を見開いた。

グレーのVネックニットに黒のスキニーパンツ姿でモデル並みの抜群のスタイルの京極さんが私の瞳に大きく映るようになっていく。

そしてニコリと微笑みながら、悠斗さんと私の間に割って入った。

「久しぶり、紗凪ちゃん。元気だった? 会いたかったよ」

初めて合コンで出会った日のように柔らかな笑顔と口調で、今この場に相応しくないであろうそんな言葉をつぶやいた。

「京極さん、何でここに……」

「悠斗くん、紗凪ちゃんを苛めないでくれる?」

私の言葉を遮り、京極さんはそう言って悠斗さんの方へと視線を送った。京極さんが悠斗さんに向かってどんな表情をしているのかは京極さんの後ろ姿からは分からない。

けれど、京極さんを見て悠斗さんの表情が一瞬だけ強張ったのが分かった。

「人聞きが悪いなぁ。それは誤解ですよ。僕はただ紗凪さんに優しく忠告してあげただけですから」

だけど強張ったのは一瞬だけ。すぐにさっきの食事会の時の柔らかい笑顔で悠斗さんは応戦し始めた。

「そうなの? それならありがとうと言わなくちゃいけないのかな?」

そんな京極さんの皮肉に悠斗さんは、ふっと笑い返した。

「なら俺も悠斗くんにひとつだけ忠告しておくね」

「忠告ですか? いったい何でしょう?」

「今後、ちょっとでも紗凪ちゃんを困らせるようなことをしたら聖も俺も許さないから」

スッと私を自分の方に引き寄せ、悠斗さんを睨みつける京極さんがそこにいる。

「紗凪さんはみんなにとても大事にされてるんですね。京極さんの忠告、よーく胸に留めておきますね。僕は食事の席に先に戻ることにします。それでは」

京極さんの強い態度にも怯むことも動揺する事もない飄々とした悠斗さんがそう言って軽く会釈をして私たちの前から去って行った。