「ロマーニ氏はとてもこだわりが強いらしく、父の会社が条件を呑まなければ、この件を見送りたいと言ってきた。このプロジェクトは父にとって海外進出に向けての大きなチャンスでね。だから父は経営が厳しいという君のお父さんの造り酒屋に融資を申し出たんだ」

「融資の件は分かりましたけど、私との結婚は何故必要なんですか?」

「父はロマーニ氏との案件が済んだら第一線を退こうと思っていて長男である俺を早く結婚させて家庭を築かせ、その上で会社を継がせたいと考えている。そこでちょうどいいタイミングで現れた融資先の娘である君に目をつけたんだ。まぁ、父の意思に反して俺は父の跡を継ぐ気はないがね」

「そもそも東條さんが会社を継ぐ気がないのならば、後継者の件も結婚の話も断ればいいんじゃないですか?」

「実は今、父の会社で内紛が起きていてね。父を社長の座から退かせて、今父の右腕として働いている俺の弟を社長の座に就かせようとする者たちがいるんだ」

「ならばそれで丸く収まるのでは?」

「父は弟が後継者になることを頑なに拒絶している。弟は弥生さんの連れ子で父の実子ではなくてね。頑固過ぎると思うのだが、父は実子である俺または妹に会社を継がせたいと固執しているんだ」

「……なんだか複雑ですね」

「ああ。俺が見合いを断ればその矛先は妹に向かうだろう。妹にはピアニストになるという夢があってね、だけど政略結婚するとなればその夢を諦めなければいけなくなるだろう。そうなることは避けたいんだ」