エリート弁護士は契約妻への激愛を貫きたい

「き、京極さん……」

反射的に顔を上げれば、そこには悪戯な笑みを浮かべる京極さんがいて、恐らく間抜け面をしているであろう私の顔を覗き込んで来た。

「紗凪ちゃんもしかして話聞いてた?」

「いや、えっと……その」

「盗み聞きなんて悪趣味だね?」

痛い所を指摘され戸惑う私を見て京極さんはどこか楽しげだ。

そして、茹で蛸みたいに真っ赤になった私の頰をスッと優しく撫でた。逃げ場がない私の背中にひんやりとしたコンクリートの冷たさが染み付いていく。

「あの……」

その間にも私の瞳に京極さんの姿が大きくなっていくのは京極さんが私の方へと顔を近づけて来ているからで、そのあまりの綺麗な容姿と妖艶な瞳に何故か視線を逸らすことができない。

息遣いさえも伝わってしまいそうなその距離に私はもはや窒息寸前と言ってもいい。逃げ場のない私は思わず、ギュッと目を瞑り迫り来る京極さんから顔を背けた。