それから数十分後。聖さんのマンションのエントランスまで京極さんが私を送り届けてくれた。

「紗凪!」

京極さんに言われたようにエントランスで私を待っていてくれた聖さんの姿が目に飛び込んできて、そして聖さんは私の姿を見つけると駆け寄ってきて、ギュッと抱きしめた。

「ひ、じり……さん?」

思いもしなかった聖さんのその行動に心臓がトクンッと跳ねた。そして抱きしめられて分かった。聖さんの身体がとても冷たくて濡れてることに。

きっと雨の中、ずっと私のことを捜し回ってくれていたのだろう。

「……心配をかけてごめんなさい」

自分自身の事だけで一杯一杯になって周りが見えなくなって連絡を無視し続けたことが急に申し訳なくなった。

「正座して待ってろって言ったのに。しかも紗凪ちゃんとの熱い抱擁まで見せつけやがって」

京極さんがそんなことををぽつりと呟きながら足を進めてきた。

「紗凪、先に部屋に戻っててくれるか? そして身体が冷えてるからすぐに風呂に入って待っていてくれ」

私の身体を解放した聖さんがそう言って私をエレベーターの方へと促した。

「……でも」

「暁斗と話したいことがあるから先に戻ってくれ。俺もすぐに行くから」

「俺も聖と話したいことがあるし、紗凪ちゃんが風邪を引いたら嫌だから早く部屋に戻ってお風呂に入りな? 大丈夫、喧嘩する気はないから」

私に拒否権はないような雰囲気で、

「分かりました。京極さん、いろいろとありがとうございました」

私はふたりに従うことにして、京極さんにぺこりとお辞儀をしてエレベーターに乗り込んで部屋に向かった。