「そ、そういう冗談は……」

「冗談じゃないよ。勿論、気まぐれで言ってる訳でもない。本気で言ってる」

いつもみたいにおちゃらける訳でもなく京極さんの真剣な瞳が戸惑う私を捉えて放さない。

「紗凪ちゃんが今、違う人を想ってるとしてもそれでも構わない。俺、紗凪ちゃんを振り向かせて世界一幸せにしてみせる」

そんな京極さんらしいキザな言葉。京極さんなら本当にその相手を世界一幸せ者にしちゃうんだろうな。だけど、私の頭に浮かんだ“あの人”の顔。

「気持ちは凄く嬉しいです。でも、今の私は京極さんとちゃんと向き合う事が出来ないから……ごめんなさい」

他の人を想っている中で京極さんの優しさに甘えてしまったら、それはきっと京極さんを傷つけてしまうことになる。

「紗凪ちゃんって真面目だよね。自分が弱ってる時くらい他のやつに素直に甘えちゃえばいいのにさ。まぁ、そんな真っ直ぐな紗凪ちゃんだから好きになったんだけどね」

「……京極さん」

「俺、超かっこ悪くね? 生まれて初めてマジ告白して振られてやんの」

そう言って優しく笑った京極さん。きっと気まずい雰囲気になるのを避けてそう戯けて見せてくれたんだと思う。

「それじゃあ紗凪ちゃんには聖と向き合ってもらうしかないよね。今から安全運転で送り届けるからね」

京極さんがそう言ってゆっくりと車を走らせ始めた。