「実は聖さんの知り合いの方がこないだ偶然、うちの事務所に相談に来られて……」

「うん」

「女性の方だったんですけどすごく聖さんと親しげだったんですよね。それで何回かご相談に来られたんですけど、その時に聖さんとその女性が意味深な会話をしてるのを偶然、聞いてしまったんです」

「なんて言ってたの?」

「女性の方が昔みたいに戻れることを願ってる、と。聖さんもそうなりたいと思っている、みたいなことを言ってて。ふたりに何かがあるのだと思ったら胸がモヤモヤしだしたんです」

「そっかぁ」

「その意味も分からないまま、ついさっき偶然悠斗さんに会って言われたんです。その人は聖さんの昔の恋人で、今ふたりは聖さんの実家で仲良く会っている最中だと。しかも聖さんと私が政略結婚だという事も知っていて、そこに愛はないと何回も言われて悲しくなって……」

「紗凪ちゃん、分かった。もう話さなくていいよ」

いつの間にか溢れ出した涙に視界が滲む。京極さんの前で泣きたくなかったのに。

「紗凪ちゃん、ちゃんと聖と話をした方がいいと思うよ? もしかしたら誤解してるかもしれないし、悠斗の言うことを鵜呑みにするのは危険だけど……でも」

「京極さん……?」

「聖といることで紗凪ちゃんがこんなにも辛い思いをして悲しい涙を流すなら俺は黙って見てらんない」

「え?」

私の頰を伝う涙をスッと優しく拭ってくれた京極さんの表情が私の瞳に大きく映るようになっていく。

「俺じゃダメ? 俺なら紗凪ちゃんにこんな思い絶対にさせないよ」

私の目を真っ直ぐに見て、切なげな声でそう呟いた京極さんの声が耳に届いた。