「少しは落ち着いた?」

それから暫くして京極さんが私の身体を解放した。

「……迷惑をかけてしまってごめんなさい」

「いいの、いいの。俺が勝手にやってることだから」

私のせいで目の前にいる京極さんはずぶ濡れ状態だ。それなのに京極さんは相変わらず優しい。

「車で走ってたら思い詰めた顔で紗凪ちゃんが歩いてるの見えてさ。慌てて近くの駐車場に車停めてきたんだけど、紗凪ちゃんのこと見失わなくて良かった」

「私、もう大丈夫ですから。京極さん風邪引いてしまうといけないので行ってくだ……」

「紗凪ちゃんのこと、ここにひとり置いて行けるわけないでしょ」

「本当にもう大丈夫ですから」

「なら聖のマンションまで送ってく」 

「それは、困ります!」

「何で?」

「それは……」

なんて言葉を返していいか分からず言葉に詰まった。

「聖と喧嘩でもしたの?」

「別に、そういう訳では……」

「ひとまず車に乗って? ここじゃ身体が冷えちゃうから」

次の瞬間、ぐいっと引かれた右腕。そして強引に私の手を取って京極さんが歩き出した。