この手をとってしまったら、それは有馬を受け入れたことになる気がした。
「……別に、平気」
有馬の手を無視して自分で立ち上がる。
それと同時にくしゃみが出て、身体がぶるりと大きく震えた。
日当たりの悪い商店街には、時折強い風が吹きこんでくる。
今日はいつもより少し肌寒く、水に塗れた服はあっという間に冷えていった。
「タオルまだかな。このままじゃ風邪引いちゃうね」
そう言うと、有馬はおもむろにジャージの上着を脱いで広げて見せた。
まさかと思っていたら、ふわりと小豆色のジャージを濡れたままの肩にかけられる。
有馬の体温が移ったジャージは温かった。
そこに髪からぽつりと、冷たい雫が落ちてしみこむ。
「気休めだけど」
また、あの微笑み。
それを目にした瞬間、わたしは有馬のジャージをつかみ、投げるようにつき返していた。
「いらない」
「えっ。でも……」
「今度はわたしの為? さすが聖人だよね。さっきあれだけボロクソに言ったあたしにも、親切にするんだから」


