こんなことを言うつもりなんてなかった。
好きになれない相手だとしても、傷つけようなんて思っていなかった。
もう嫌だ。言いたくない。この口を縫い付けてしまいたい。
「一生汚い商店街の掃除を繰り返して、聖人気どりでいればいいよ。この偽善者」
自己嫌悪で叫びたい衝動に襲われた。
ただでさえ好きになれずにいる自分自身を軽蔑しかけた瞬間。
「うわ……っ!?」
痛いほどに冷たい水が、横からぶつけるようにかけられた。
あまりに突然すぎて驚き、脚立ごと横に身体が傾ぐ。
手から『落書きクン』のスプレー缶がこぼれ落ちていく。
わたしもこのまま、ひび割れたアスファルトに倒れるんだと覚悟して目をつむった。
「大崎さんっ」
けれど、腕を畳んで身を固め、次に来るだろう衝撃に備えていたのに。
痛みを受ける前に、わたしの身体を抱きとめる腕があった。
そっと目を開ければ、有馬が下敷きになるようにしてわたしをかばっていた。
驚いて見開いた目に、垂れてきた水が入ってくる。
反射でまた目をつむり、ハッとした。


