有馬にスプレー缶を渡されて、まじまじとそれを見た。
『ラクラク激落ち! らく書きクン』と印字されている缶に、落とす方がらく書きクンて名前でどうするんだとツッコみたくなる。
「……こんなので本当に落ちるの?」
「意外と落ちるよ。落ちにくいところは、このスポンジでこすってね」
そう言って有馬が空っぽのバケツ片手に去ろうとするから、慌ててその腕をつかんで引き留めた。
「ちょっと! これ、わたしひとりでやるの!?」
「え? あ、いや。俺もやるよ。最後仕上げに水拭きするから、隣りのお店の人に水をもらってこようと思って。ついでに脚立もあった方がいいよね」
「な、なんだ……。あ、ごめん。いきなり触って」
慌てて手を離すと、有馬は小さく肩をすくめて「大丈夫だよ」と笑い、今度こそ離れていく。
隣りの店に入って「すみませーん」と声をかける彼を見送り、ため息をついた。
別に普通に喋る分には、いい奴なんだけどなあ。
人当たりが良くて、穏やかで、落ち着いた話し方をする有馬。
ボランティア部の聖人なんて呼ばれていなければ、むしろそこいらのガサツで口調の荒い男子より、ずっと好感が持てる。


