出逢ってからの有馬との会話。
初対面でいきなり「嫌い」と吐き捨てた声。
一緒に水を浴びせかけられた商店街。
色鮮やかすぎるお弁当。
困ったような笑顔。
笑顔の下の無表情。
慰めてくれた優しい手。
人の命を奪う時の、感情を消した瞳。
食べた命を、必死に吐き出す苦し気な背中。
いまにも折れてしまいそうな、細く頼りない、背中。
その時不意に、猫の鳴き声が聴こえた。
猫……あの、静かな瞳の。
猫を雑に抱き上げる、有馬の手。
猫を腕の中におさめ、彼は言った。
たくさんの車が行き交う、あの場所で。
そうだ、あそこだ。あそこしかない。
そう思った時にはすでに、身体は動いていた。
走る。一分でも一秒でも早く、有馬のもとに駆け付けるために。
お願いだからそこにいてほしい。
そう思うと同時に、絶対にそこにはいないでほしいと願う、矛盾する自分がいる。
見つからないと不安で仕方ない。
けれどそこで見つけてしまったら、最悪の事態になる予感がするのだ。
どうしようもなく悲しい、取り返しのつかない事態に。


