看護師の手を離し、視線を落とす。
看護師がいなくなりしばらくして、ようやく顔を上げた。
がっかりしている暇はない。
はやく有馬を見つけないと。
病院を出て、行く先に迷ったのは一瞬。
きっとあそこだと、力強く駆けだした。
向かったのは一昨日、あの親子が事故に遭った現場だ。
有馬はここにいるに違いない。
というか、もうここしかなかった。
けれどそんなわたしの期待は裏切られる。
事故現場に、有馬の姿は見当たらなかった。
横断歩道の手前に、色とりどりの花が置かれているだけ。
献花がなければ、一昨日ここで大きな事故があったことなど感じさせない、平和な光景が広がっている。
よく見れば、道路にあの女性の流した血のあとが残っているけれど、それだけだ。
ここで事故に遭った人が、今日亡くなった。
けれどここには日常が戻り、事故のことなどなかったかのように時間は流れていく。
こんな場所に、有馬が来られるわけがない。
ここでもないなら、一体どこに行ったのか。


