「いくる。ちょっといい?」
「どうしたの、お母さん」
「病院から電話があったの。あんたにも一応話しておこうと思って」
ためらいがちに一度スマホを見下ろしてから、顔を上げる。
その時にはすでに、看護師の顔になっていたように見えた。
「昨日あんたが付き添った、集中治療室の患者さん。さっき亡くなったそうよ」
「……え?」
「別にあんたに話してどうこうなるわけじゃないけど、一応ね。気になってるかと思って……あ、ちょっといくる!?」
「どこに行くの」というお母さんの声を背に玄関の三和土に降り、スニーカーを引っかける。
靴箱の上に置いていたスマホをつかみ、家を飛び出した。
走りながら、有馬のスマホに電話をかける。繋がらない。
何度もかけ直す。けれど向こうは沈黙したままだ。
スマホの近くにはいないのかもしれない。
嫌な予感がする。それも、特大の。
焦りからか、うまく足が回らずもどかしくなる。
もっと速く走りたいのに。


