ぼんやりとしたまま、建付けの悪い玄関の戸を開けた。
ただいまと言う気力すらなく、家の上がり框に崩れるように腰を下ろす。
身体がひどく重い。
まだ、悪い夢の中にいるようだった。
夢ならばどれほどよかったか。
有馬のことを思うと、胸の痛みはひどくなるばかりだ。
「いくる! あんたこんな時間までどこでなにしてたんだい!」
突然背後から怒声が響いて、一瞬お尻が宙に浮いた。
来たか。まあ、怒られるだろうなと覚悟はしていた。
時刻は21時をとっくに過ぎている。
いままで連絡もせずにこの時間まで帰らないことはなかった。
「病院、行ってた」
靴を脱ぎ、上がる。
振り返った先では予想通り、鬼のような顔をしたおばあちゃんが仁王立ちしていた。
「病院って、お母さんのとこかい」
「……まあ、うん」
説明する気にもなれず、適当に相槌をうつ。
面倒というよりも、上手く説明できる気がしなかった。


