ちらりと猫を見下ろすと、金色の目はすべてを悟っているような静かな眼差しを前に向けていた。
「お前は何か勘ちがいをしてるようだがな、俺の仕事は回収だ」
「回収……?」
「死んだ奴の魂を、あるべき場所へ導くだけの、楽で面倒な仕事だ」
「でも、有馬に命をあげて、人の命を奪う力も与えたんでしょう?」
「不測の事態が起きたからな。基本的に人間の命そのものに手はださねぇが、調整することは稀にある。そういうこった」
そう語るおっさんの声には、わずかに残念そうな響きが混じっていた。
ということは、本当に偶然だったのか。
有馬は偶然、余命の少ないあの女性の命をもらってしまった。
出逢ったのは偶然で、亡くなるのは運命ということなのか。
「そんなのってない……ひどいよ……」
「特別ひどいことなんかねぇよ。いつだって人の生き死になんてのはこういうもんだ」
運命に、情なんてものはない。
そんな冷たいことを言いながらも、死神はずっと、わたしの隣りを歩いてくれた。
家にたどり着くのを黙って見届けてくれたあと、猫は夜の闇へと戻っていった。
たぶん、有馬のところへ行くのだろうと思った。


