病院を出てからも、俯く有馬の姿と、彼の手の冷たさがわたしの中から消えずに残っていた。
良かったんだろうか。
あそこに有馬を残してきて、本当に良かったんだろうか。
「そんなにあいつが気になるか」
のろのろと歩きながら後悔していると、以前も聞いたことのある質問がすぐ傍から投げかけられた。
いつの間にか、猫のおっさんがわたしの横を優雅に歩いていた。
わたしの歩調に合わせ、のんびりと。
マイペースな死神が憎らしくなり、有馬がしているように首根っこをつかまえようとしたけれど、するりと躱されてしまう。
「……どうして、あんなことをしたの」
「あんなこと? なんのことだかなぁ」
「とぼけないでよ。あんたなんでしょう? あのお母さんの命を奪ったのは」
とぼけた調子と人間臭さについ忘れてしまいそうになるけれど、この猫は猫じゃない。
人の命を奪う、死神なのだ。
「俺じゃねぇだろ。あの母親の命を奪ったのは、あいつだ」
「でも、あんなのタイミングが良すぎる! 有馬が命をもらった直後に事故に遭うなんて、そんなこと……」
「俺は何もしてねぇよ。すべては偶然と、運命だ」


