自分でわからないのに有馬にわかってほしいだなんて、おこがましいにもほどがある。
落ちこむわたしに、有馬は困ったように頭をかいた。
「言っただろ。偽善にも、偽善のプライドがあるんだよ。それに僕は……」
何かを言いかけた有馬だけれど、前から走ってきた子どもとぶつかりそうになり、言葉を切った。
そんな有馬を気に留めず、2、3歳ほどの小さなおの女の子は、水色のスカートをひらめかせ、楽しそうに駆けていく。
「すみません、すみませんっ」
その女の子を追いかけ、母親らしき人が有馬に頭を下げつつ走り抜けていった。
クリーム色のワンピースを着て、後ろできつく髪を結んだその人は、少し疲れた顔をしているように見えた。
「走らないで、待って!」とその人は叫ぶけど、子どもは聴こえていないかのようにどんどん離れていく。
可愛いけれど、大変そうだ。
そんな他人事の感想を抱いたわたしの目の前で、有馬が急にしゃがみこんだ。
どうしたのかと思えば、その手には黒いパスケース。
「それ、いまの人の?」
「うん。そうみたいだ」
有馬は迷うそぶりもなく、女性と子どもを追いかけ走り出した。


