いずれは自分たちも老いるのに。
未来の自分を虐げていると、気づきもしない。
自分が老いた時、ようやく気づくのだろうか。自分がやってきたことに。
それとも老いても気づかないままなのだろうか。
変わらず他人を罵って、文句ばかり言いながら死んでいくのだろうか。
こんな名前、捨ててしまいたい。
そう呟きかけた時、車椅子のハンドルを握る手に、ぽつりと冷たい雫が落ちてきた。
「あ……振ってきちゃいましたね」
ぽつぽつと、灰色の舗装された道に濃いシミがついていく。
「戻りましょうか」と、車椅子を方向転換させようとした瞬間、聴こえてきたか細い声に動きを止めた。
「……け、てぇ」
「梅さん……?」
骨と皮だけのしわしわな手が、ゆっくりと持ち上がる。
小刻みに震えながら梅さんが手を伸ばした先には、無残に枝を切り落とされた梅の木が。
「たすけてぇ……」
はじめて届いた梅さんの声に、応える言葉をわたしは持ち合わせていなかった。
庭に残るわたしたちのことなど気にかけることなく、雨足はゆっくりと、けれど確実に強くなっていく。
冷たい雫が頬をつたっていった。


